上空3,000mから消えた紳士——全米を震撼させた「D.B.クーパー事件」の謎とは!?
突然ですが、「空の上で起きた事件」と聞くと何を思い浮かべますか? 同時多発テロや旅客機の失踪事故など痛ましい事件が頭をよぎるかもしれませんが、実はアメリカの航空史上にひとつだけ、「誰一人傷つけず、犯人だけが煙のように消えた」という、まるで映画のような未解決ハイジャック事件が存在します。その名も「D.B.クーパー事件」。
爆弾をちらつかせながらも終始紳士的に振る舞い、バーボンを嗜みながら鮮やかに大金を強奪。そして激しい雷雨の中、上空3,000mの夜空へと身を投げた伝説の男。今回は一般のミステリーファンから都市伝説・オカルト好きまでを魅了し続けるこの奇妙な事件の全貌と、ささやかれる数々の容疑者・怪説について触れていこうと思います。
紳士的すぎるハイジャック犯「ダン・クーパー」
事件が起きたのは、1971年11月24日、感謝祭の前日のことでした。
オレゴン州ポートランド国際空港からワシントン州シアトルへ向かうノースウエスト・オリエント航空305便(ボーイング727)に、「ダン・クーパー(Dan Cooper)」と名乗る男が片道チケットを現金で購入して乗り込みました。(※のちにメディアが「D.B.クーパー」と誤って報道したことから、この名前で世界中に知れ渡ることになります。)
男の見た目は40代半ば、身長180cmほど。黒のスーツにネクタイ、トレンチコートを羽織り、黒のアタッシュケースを手にした、どこにでもいそうなビジネスマン風の男でした。
後方の座席に座ったクーパーは、落ち着いた様子でタバコに火をつけ、バーボンのソーダ割りを注文。そして離陸して間もなく、近くにいた客室乗務員の女性に1枚のメモを手渡します。
最初「ナンパの連絡先かな?」と気にも留めずポケットにしまった乗務員に対し、クーパーは静かに呼びかけました。
「お姉さん、そのメモを見たほうがいい。私は爆弾を持っている」
アタッシュケースの中にある赤くて太い筒や配線、バッテリー(爆弾らしき装置)を一瞬だけ見せたクーパーは、驚くほど冷静な口調で次の要求を突きつけます。
- 現金20万ドル(現在の価値で約1億円〜1.5億円以上!無傷の20ドル札1万枚)
- パラシュート 4つ(手動操作できる民間用のメイン2つ、予備2つ)
- シアトル到着時の給油用タンクローリーの待機
地上で要求の品が揃うのを待つため、飛行機はシアトル上空を2時間近く旋回することになりました。しかしクーパーは、乗客を不安にさせないよう「軽微なトラブルで遅れている」と説明させました。
待機中もバーボンのおかわりにチップを渡そうとしたり、乗員たちの食事を気遣ったりと、その振る舞いは終始穏やかで上品だったといいます。
雷雨の夜、上空3,000mからの「消滅マジック」
シアトル・タコマ国際空港に着陸すると、クーパーは要求通りの現金とパラシュートを受け取るのと引き換えに、乗客36名と一部の乗員を全員無事に解放しました。
そしてパイロットなど最小限の乗員だけを機に残し、次なる目的地として「メキシコシティ」へ向かうよう指示します。
この時、クーパーは操縦士へ非常にマニアックな飛行条件を指定しました。
- 高度10,000フィート(約3,000m)以下で飛行すること
- フラップ(高揚力装置)を下げ、失速ギリギリの低速(約100ノット=時速約190〜300km)を維持すること
- 客室の与圧は掛けず、ギア(車輪)を出したままにすること
この飛行機の限界や構造を知り尽くした指示から、彼は元軍人や航空関係者ではないかと推測されています。
途中の給油地であるネバダ州リノへ向けて再離陸したのち、クーパーは残っていた乗務員を全員コックピットへ押し込めました。 夜8時過ぎ、機内には機体後部の階段(エアステア)が開いたことを示す警報音が響き渡り、機体がガクンと上方向へ跳ね上がるような衝撃が走ります。
夜10時過ぎ、飛行機がリノに着陸し、待ち構えていた警察やFBIが一斉に機内へ踏み込みました。しかし……そこにクーパーの姿は影も形もありませんでした。
外は激しい雷雨が吹き荒れる暗闇の夜空。追跡していた戦闘機すら見落とす中、クーパーはパラシュートを身につけ、20万ドルの現金を抱えて、上空3,000mの闇の中へ跳び降りて消え去っていたのです。

犯人はだれ? 浮上するくせ者だらけの容疑者たち
FBIは膨大な資料をもとに捜査を展開し、1,000人以上もの容疑者をリストアップしました。その中でも特に有名な「怪しい人物たち」をご紹介します。
完コピ模倣犯「リチャード・マッコイ」
事件の翌年(1972年)、クーパーと全く同じ手口(飛行機からパラシュートで逃走)でハイジャックを行った男です。 似顔絵がクーパーに激似で、元軍人のベテランパラシューター。後に逮捕されますが、ゴミ収集車で刑務所の門を破って脱獄するという映画のような大暴れを見せました。妻が「夫はクーパーだと言っていた」と証言したものの、事件当日のアリバイやタバコ・お酒を嗜まないといった特徴の違いから、FBIは「模倣犯であり同一人物ではない」と結論づけています。
死後に友人が暴露した「ウォルター・R・レカ」
元軍人のパラシュート部隊所属で、死後に友人へ「自分がクーパーだ」と告白する録音テープを残していた人物です。 飛び降りた後に立ち寄った場所やルートなど詳細を語っており、友人による独自調査では「間違いなくクーパーだ」と主張されましたが、FBIの非公開情報との整合性により特定には至りませんでした。
暗号を手紙に潜ませた「ロバート・ラックストロー」
元ベトナム帰還兵で、特殊部隊(グリーンベレー)で航空機や暗号技術を学んだ経歴を持つ人物です。 テレビプロデューサーらが、事件後に新聞社へ届いたクーパーからの手紙(解読不能とされていた9桁の数字や暗号文)を解析したところ、「私の名前はD.B.クーパーではない」「私はロバート・ラックストローだ」と読める数値システムを発見したと発表しました。しかし、FBI側は「こじつけに過ぎない」として本格捜査は見送っています。
さらに世間では、「亡くなったうちの旦那の遺言がクーパーだった」「叔父こそが犯人だ」と名乗り出る人々が後を絶たず、クーパーは半ば都市伝説的なアンチヒーローとして神格化されていくことになります。

残された手がかりと、深まる考察
事件から9年後の1980年、ワシントン州のコロンビア川沿いでキャンプをしていた少年が、ボロボロに風化した20ドル札の束を発見します。
通し番号を照合した結果、それは事件当時にクーパーへ渡された身代金の一部(約5,800ドル分)であることが判明しました。 しかし、残りの約19万ドル以上の紙幣はどこからも見つからず、市中に流通した形跡すら一切ありません。
ここから、考察ファンの間ではいくつかの仮説が語られています。
漆黒の嵐の中に飛び降りて即死説
氷点下の極寒、雷雨が吹き荒れる夜空へ、ローファーとトレンチコートという軽装で跳び下りたため、無事に着地できず山中で命を落とし、お札とともに自然に還ったという説。
共犯者存在&鮮やかな脱出説
あくまですべては「空中で消えた」と思わせるためのカモフラージュ。パラシュートを4つ要求した(=誰かを連れて降りると思わせて警察の撃墜を防ぐため、または地上に協力者がいた)ことや航空知識の深さから、実は機内や地上に共犯者がおり、密かに生存して高飛びしたという説。
2016年7月、FBIは「新たな証拠が出ない限り捜査資源を他へ回す」として、45年間に及んだ公式捜査の停止を発表しました。半世紀が経過した今もなお、彼の本名も、着地後の消息も謎のままです。
いかがでしたでしょうか?誰一人として傷つけず、バーボンを嗜みながら鮮やかに大金を奪って夜空へ消えた「ダン・クーパー」。悪党でありながらどこかダンディで怪盗ルパンのような魅力を放つ彼は、いつしかアメリカ史上で最も不気味で、そして最もロマン溢れる「アンチヒーロー」として語り継がれるようになりました。
飛び降りた男はどこへ行ったのか?消えた残りの身代金はどこへ?という疑問に対する明確な答えは現在でも明らかになっていません。しかし科学捜査が進んだ現代でも真相が明かされないからこそ、「D.B.クーパー事件」の人気はとどまるところなく今なお世界中の心を掴んで放さないのではないでしょうか。
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参考
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D.B.クーパー事件 – Wikipedia